激かメ人間伝

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お誕生日

お陰さんで48歳に到達したんですけども、いや、特に誰からもなんのお陰も頂いていないけども。というよりむしろ俺が陰。俺が陰そのものであった。日本妖怪お陰さん。夜道を歩いていると後ろから何やら音がする。ぺとり。ぺとり。まあそれはアレで。48歳おめでとうございます。ありがとうございます。

 

でもなんかあと2年で50歳みたいな噂も聞いて? いやいや。あと2年で50歳? それはちょっと計算おかしくないですか。おかしいですよお陰ジナさん。普通に考えておかしいだろ。50なんてのは明らかにまだまだ先の話でしょう。そんなあと数年でなるわけがない。一体どういう計算をしているのか。ゆで理論かよ。「今の年齢48に、2年後の2を足して、48+2の、死んだ親父の年齢を上回る50歳だー(キュルルル)」ってか。アホか。草も生えんし角も折れんわ。計算おかしいだろ。年齢増えすぎだろ。リボ払いかよ。

 

ついこないだまで若かったからね。最近ようやく「まあおっさんかな」くらいでしょ。なのに48+2が50になるわけがない。アホかその計算。1+2=パラダイスかよってな。知らないんすか。そういうタイトルの漫画が80年代にあったんすよ。男が1で女が2でさ、まあ足したらパラダイスなんですわ。どういうパラダイスかってのは、そりゃあ、まあ、そういうパラダイスだよ。ならばついでに聞いていけ、俺の80年代、パラダイスのメモリーを。

 

昔は田舎に住んでたもんで遊び場なんて山とか森でな。ある日そこで一人で遊んでいると大量の漫画雑誌が捨ててあったわけよ。捨てて間もない感じでまだ綺麗でな。そら持って帰りますわ。だって漫画いっぱい落ちてんだで。ジャンプとかもあるけど週刊じゃねえし。週刊ジャンプじゃない漫画雑誌なんてサブカルなもんオラ読む時ねえだよ。拾うだで。何往復もして家に全て運んだ。

 

ほんで自分の部屋にドカーンと拾った漫画積み上げてな。読みまくり人生のスタート。家族も疑問に思って尋ねてくるが、拾ってきたと言うと怒られそうなので「頼んで譲ってもらった」とお茶を濁す。漫画を読み耽るワタクシの横で家族もそれを手に取り、パラパラとページを捲り、手を止め、沈黙、「フーン」と去っていく。その所作に違和感。まあ良い。俺は漫画を読みたい。そしたらなんか、あらら、ちょっとなんというか、気のせいなのか分かりませんが、月刊漫画誌なんかはある種の漫画が多くてらっしゃいますね。あらら。ふむふむ。ほうほう。なるほどー。あらら、やるっきゃないなー。パラダイスだなー。おやおや。楽しい楽しい。そして隠された事実に気付くのに数ヶ月掛かった。

 

全ての雑誌の巻末、目次のページ。エッチな漫画だけタイトルに印が付けてある。あ、なるほど。そういうアレでしたか。一応一般漫画誌ばかりだったんで気付かなかった。しかもなんかそれぞれ数字が書いてある。なんの数字だよこれ。山の中に暗号置いとくみたいなジュブナイルか。それともあたまおかしいのか。そしてもしかして家族の者らはこれに気付いていたのか? 聞くか? 聞けるか?

 

30年以上の時が経ち、今はもうその答えを聞くことも出来なくなってしまった。父さんあの本覚えていますか。あの数字はなんだったんでしょうね。いや、知っています。分かります。明らかにエロい順番で数字がふってあったと思います。僕の感想とも大体一致しましたので間違いありません。あれはエロい順です。どなたかのエロコミレビューです。

 

エロに貴賎無し。評価や順番付けてんじゃねえぞ。ジェームス三木かよ。というかそれ俺の仕業だと思われてない? 頼み込んで譲ってもらった本からエロの香りを嗅ぎ分け、次々にレビューをしていく怪物(ハイパーエッチクリエイター)が我が家にいると思われていた?

 

そこに至った瞬間、少年の心の闇が一層濃くなり、お陰さんが誕生した。あなたが夜道を歩いていると、背後からぺとりぺとりと音がする。振り向くとそこには。漫画雑誌を拾い集める異形の物。目次にエロい順で番号を付けていく。悲しきソムリエ。日本妖怪お陰さん。

 

というのが80年代の思い出ですので逆算すると? もうすぐ50ってのもあり得る? あるわ。あり得てしまうのか。でも50ってもっとこう、アレじゃないの。あの頃思い描いていた50の大人となんか違わない? まだ間に合うか? どうすんだ? 選挙とか出ればいいのか? それともその逆か? 大人だから、こう、エロなんじゃないか? エロは大人のものなんだからそれに関わる事で大人足り得るんじゃないか? じゃあ俺も漫画雑誌にレビュー付けちゃうか。下着がチラリしてるのでプラス1点です。でも点数付けてどうすんだ。そんなレビュー付けて何しろってんだ。レビューさえ付ければ大人なのか。

 

分かるだろ。山に捨てるんだよ。そして他人に拾わせる。己の価値観、レビューを誰かに見せつける事で暗い悦びを得る。人の人生を歪める。心に闇を植え付ける。しかしそれが大人なのだとしたら、そんなものになりたくは無かった。